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退屈しのぎに嬉しい悲鳴を

140文字じゃ足りないこと!

ナラタージュ


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「僕が一緒に死んでくれと言ったら」
「一緒に死にます」

「お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある」
「無理だ、僕にはできない」


映像化が決まったときから読まなきゃ読まなきゃと思いつつ、先客の嬉しい悲鳴をあげてくれが余りに素敵で思いのほか時間を費やしてしまって本日ようやく読了。

甘酸っぱいとも違う、ただ甘ったるいわけでもなく、それは無色透明であってどろどろと濁っていて。

とても精神を遣った。

大好きな有村架純ちゃんの影を消したとしても、ふいに音ちゃんが浮かんで。

泉から頼られ彼女を守ることで自分の弱さから逃れていた葉山先生と、彼に頼られてその弱さを全て曝け出してくれていると思っていた泉。

2人はきっと両想いだけど両想いじゃなかったんだろうなあと。それはこの先もずっと。

お互いを支えることで何より自分が支えられていた2人はどこか似ていて、泉が葉山先生に対して感じていた「死」のイメージからの近さを、きっと葉山先生も泉に対して感じていたのだと思う。

そんな儚さを同じように感じていた小野は、きっと怖くてたまらなかっただろう。
変わってゆく小野を怖いとは思わなかった。
だけど悲しかった。激しい感情を表には出さないと言って泉と共感しあっていた小野の声を荒げる姿に胸が締め付けられた。

泉と小野を見ていると、2人にとってその恋愛が自分の全てであってどれほど大きなものかが分かる。だから読むほどに苦しい。

 

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とても印象的だった一節。

葉山先生はいつまでも泉にとって大人だった。
葉山先生が背負うものは大人だからこそのもので、教師と生徒という間柄が蝕むのもそれだったと思う。
だからこそ葉山先生が泉に言った「これしかなかったのか。僕が君にあげられるものは」という言葉がとても強く心に残ったし切なかった。
本当は何をあげたかったのか…なんて考えれば考えるほどに切ない。
これに関しては、小野との対比も深かったなあ。
ただ埋まらない心を必死に埋め合わせるように体を寄せ合うところは同じで。
恋愛小説とこういう描写は切っても切れないところがあるけれど、この作品では2パターンのそれが余りに切なく泉を苦しめていた。

彼を好きでいることがつまり自分であるということで、自分が自分である限り彼のことが好きなのだと信じて疑わない気持ち。
それはある種の依存のような、病気のような、こんな私にだって心当たりのあるもので。

個人的に読者に「後は任せたっ!」って読後感によって結末を悟らせるもやもやっとした終わりかたがとっても好きなのだけど、この作品は特にそのど真ん中を行く結末だった。

駅のホームを引き返して葉山先生の乗る電車を見送って、「それが私が葉山先生に会った、本当に最後のときだった」とあるように、この先の2人の人生が交わることはもう無いのだ。
そして葉山先生は奥さんと埋め合わせるように2人の人生をやり直して、泉は懐中電灯の彼と寄り添って生きていく。
それでも、泉はこの先もずっと葉山先生からの確かな愛を胸に抱きとめて静かに生きていくのだろうなと思うと泣けた。

この物語に出てくる登場人物は皆が皆、自分1人では抱えきる事のできない激しい感情を抱きながら、それをそう簡単に吐き出すことをしない。
それでいて常に誰かが誰かのことを強く思っていて、思い出すたびに震える描写が沢山。

若さを全面的に推した恋愛小説であるけれど、それは確かに一生分の恋愛で、誰にとってもそれが全てなのだ。忘れないのだ。忘れてしまえないのだ。

この先の人生で彼以上に誰かを愛することが出来ずに、彼という甘い呪縛に囚われて生きていくのだろうか。
それとも、思い出すことさえ忘れてしまうほどに、もはやあんなものは愛でもなかったと思ってしまうほどに誰かを愛するのだろうか。
どちらにせよ悲しい。
だけどどっちだっていい。
正直なところ、あんな思いは一度で良いと思う。
本当は、忘れられないというよりも忘れたくないんじゃないかと思う。
そしてこうして節々に自分と重ね合わせてしまう私はきっと、どこまでも単純で恋愛気質なんだろうなあと思う。

にしても、重い内容だって沢山あったのに清潔感があってさっぱりした描写のおかげでめちゃくちゃ読みやすかった。
あとは葉山先生と泉の共通の趣味である映画だったり小野の好きな音楽だったりが沢山出てきて、音楽は後から聞いてみたりしたけどそれもまた良き。
エゴラッピンとか知ってるのも出てきたりして雰囲気出たなあ。
作者さんの他の作品も読んでみる価値がありそう。
良い作品でした。とっても。

映像化原作本の良さはより具体的に頭の中で回想出来るところだけど、小野くんのイメージが完全に出来上がっちゃっててこの後にキャスティング発表があるのはちょっとタイミングを間違えてしまったような気がする。
でも今だって潤くんの葉山先生を想像するだけで泣けてしまう。
泉は架純ちゃん以外誰も演じられない役柄だなあと。
そしていつ恋が観たくなる私はやはり単純だなあと。
でも本当にそう思えるぐらいナイスキャスティングなんだよ。本当。
楽しみだけど楽しみじゃないなあ。
私はきっとこの作品に沈む愛に耐えられない。